【映画雑談】『オッペンハイマー』を見てみた話

ねこさんの記事

世界初の原子爆弾を開発した「原爆の父」と呼ばれるロバート・オッペンハイマー
彼の生涯を描いた伝記映画『オッペンハイマー』が2023年に公開されました。
『ボヘミアン・ラプソディ』『アメリカン・スナイパー』を抜いて、伝記映画として歴代1位の興行収入を生みだし、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞など数々の華々しい賞を受賞した作品を見てみましたので、感想を語っていきたいと思います。

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オッペンハイマーとは

冒頭でも触れましたが、ロバート・オッペンハイマーは、アメリカの理論物理学者です。第二次世界大戦中のロスアラモス研究所初代所長であり、マンハッタン計画を主導した原子爆弾の開発者の一人です。

ドイツからのユダヤ系移民の子としてニューヨークで生を受けたオッペンハイマーは幼少期から成績優秀で、鉱物や倫理学に興味を持つ少年でした。
ハーバード大学で化学を専攻したオッペンハイマーは、在学中に複数言語も習得し、飛び級かつ首席で卒業するという神童ぶり。彼はハーバード大学を卒業後、物理学に興味を持ったため、イギリスのケンブリッジ大学に留学しキャヴェンディッシュ研究所で物理学や化学を学びました。
しかし実験を伴う物理学が不得手だったオッペンハイマーは、精神を病み、酷いホームシックで不安定な時期を過ごします。そのうちに彼の興味は実験物理学の世界から理論物理学の世界へと変わっていきます。
理論物理学が発展していたドイツのゲッティンゲン大学へ移籍後、原子力研究に繋がる量子力学と出会うことになります。オッペンハイマーはアメリカに帰国後、大学の物理学教授となり、マンハッタン計画に携わる直前には宇宙物理学の分野にまで研究範囲を広げ、ブラックホールをめぐる先駆的な研究を行っていました。

一方で、自身の出自からユダヤ人の動向に興味を持っていたオッペンハイマーは、政治的に左翼傾向の思想を持っていました。交際していた女性の影響などから共産主義活動にも興味を持ち、大学で共産主義の集会を開くなど積極的な活動を行っていました。共産党に入党することはなく、マンハッタン計画の推進と共に共産主義活動をやめていましたが、戦後にこの当時の活動が原因でスパイ容疑をかけられることになります。

第二次世界大戦が勃発直後の1939年10月。フランクリン・ルーズベルト大統領の元に、アインシュタイン署名の手紙が届きます。手紙には、アメリカに先立って核分裂を発見していたナチス・ドイツ領下でウランを使った新型爆弾が開発されている可能性が示唆されていました。原子爆弾の開発を焦ったアメリカは、1942年、アメリカ、イギリス、カナダの技術者を総動員し、原子爆弾を開発するマンハッタン計画を始動します。
他に適任者がいないという理由でマンハッタン計画の責任者に任命されたオッペンハイマーは、全米各地に分散していた原子爆弾の研究者を一か所に集約するため、ロスアラモス研究所を設立。1943年に開所したロスアラモス研究所は一つの都市のような規模で、研究者や関係者の家族も移住する大所帯となりました。

それまで管理職の経験がなかったオッペンハイマーでしたが、優れた統率力を発揮し、計画始動からわずか3年で原子爆弾が完成することになります。

原爆投下後、第二次世界大戦を終わらせたとしてオッペンハイマーの業績は称賛されますが、1949年、オッペンハイマーにソ連のスパイ容疑がかけられ、1953年には職務停止処分を受けます。1954年から始まったオッペンハイマーの聴聞会の結果、オッペンハイマーは公職を追放されることになりました。

政府要職から退いた後は、国内外の大学の講義に携わるなどの活動を続け、日本にも訪れ講演会を開くなどの活動をしていました。1963年にはエンリコ・フェルミ賞を受賞し、公職追放は解除されないものの、公職追放処分決定の非が認められた形になりました。
1967年、咽頭がんを患っていたオッペンハイマーは62歳という若さでこの世を去りました。
2022年、アメリカエネルギー省は、オッペンハイマーの公職追放処分を撤回することを発表しました。

映画『オッペンハイマー』

映画『オッペンハイマー』は、『ダークナイト』シリーズで名を馳せたクリストファー・ノーラン監督がメガホンを取り製作され、2023年に公開されました。

Universal Pictures

【監督・脚本・共同製作】
クリストファー・ノーラン『ダークナイト』シリーズ、『インターステラー』『TENET テネット』など
映像や演出に関して熱いこだわりが感じられる作品が多く、正義の側面と悪の側面が両立しているようなキャラクターを登場させることが多い監督さんですね。今作でも、原子力のエネルギーを表現するような映像がいたるところで見られますし、そのほとんどをCGではなく実際のものの動きを撮影することで表現しているそうです。また、オッペンハイマーが技術者としての興味やプライドから原子爆弾の製造に熱意を持つ側面と、それが兵器として利用されることへの恐怖や罪悪感を持つ側面をとても印象強く表現していると感じます。そういうの、上手な監督さんですよね…笑
【原作】
『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』
カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン

【キャスト】
オッペンハイマー:キリアン・マーフィー『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』『ダンケルク』など
キティ:エミリー・ブラント『クワイエット・プレイス』シリーズ、『メリー・ポピンズ リターンズ』など
    エミリー・ブラントさんの演技が秀逸ですよ~!!
グローヴス:マット・デイモン『AIR/エア』『フォード&フェラーリ』『オーシャンズ』シリーズなど
ジーン:フローレンス・ピュー『ミッド・サマー』『ブラック・ウィドウ』『長靴をはいたネコと9つの命』など
ストローズ:ロバート・ダウニー・Jr.『アイアンマン』シリーズ、『シャーロック・ホームズ』など
アーネスト:ジョシュ・ハートネット『パール・ハーバー』『ブラックホーク・ダウン』など
ニールス・ボーア:ケネス・ブラナー新ポアロシリーズ、『ダンケルク』『TENET テネット』など
ボリス:ケイシー・アフレック『ジェシー・ジェームズの暗殺』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』など
    ベン・アフレックさんの弟さんですね♪兄弟そろって秀才です♪
ボーデン:デヴィッド・ダストマルチャン『アントマン』シリーズ、『ダークナイト』など
デヴィッド:ラミ・マレック『ボヘミアン・ラプソディ』『リトル・シングス』など
トルーマン大統領:ゲイリー・オールドマン『ハリー・ポッター』シリーズ、『ダークナイト』シリーズなど
名優ぞろいのキャスティングですね!

映画の半分以上は物理の授業と思えてくるくらい、専門用語バリバリ笑
歴史上の人物や、関係性なども事前に理解していないと内容を把握するのが難しいです。
しかし、だからこそ事実に忠実に描かれている映画なのではないかなと感じます。
原子力に対する純粋な興味や、世界初の原爆開発者になりたいという研究者としてのプライド。一方で原爆が完成したら兵器として利用され、たくさんの人が犠牲になるだけでなく、核兵器開発の世界的競争の火種をつくることになるという恐怖と罪悪感。
自分では止められない流れに乗って急速に世界を破壊していく様子を、映像演出と共に主演のキリアン・マーフィーさんが熱演されています。

米国では原爆投下は正しかったという意識が根強いと聞きますが、それはやはり「その後」を知らないからなのではないかなと思います。今作では、被ばくするとどうなるか、という部分はほとんど語られていません。「研究者たちはもちろん知っている」「だからこそ兵器として利用されることに恐怖している」という構図で描かれていますが、もっとリアルに被ばく被害を伝えるシーンがあれば、米国の方にも別の見方をしてもらうきっかけになったのではないかなと思います。
ただ、オッペンハイマー自身の視点でとらえると、被ばく被害については把握しているけれど「目をつぶった」という部分でもあるので、ある意味忠実な演出なのかなとも思えてきますね。

世界初の偉業を成し遂げ、第二次世界大戦を終わらせたオッペンハイマー。彼は世界を壊した張本人。
私は戦争を経験している世代ではもちろんないわけですが、原子爆弾がどれだけ恐ろしいものなのかということは20年以上伝え聞いてきた世代です。戦争という異常事態下で、世界を破滅させた原子爆弾を開発した人たちは何を思っていたのか。改めて考えさせられる映画でした。
ぜひ頭をフラットにして見ていただければと思います。

おまけ

戦争映画はいつ、どの作品を見ても、考えさせられる部分が多いですね。
実際に戦争を経験した世代ではないからこそ、せめて映画でも悲惨さや悲しみを想像して、世界に平穏が訪れますようにと願わずにはいられません。
今戦争に巻き込まれていないことに感謝して、毎日を大切に生きていかないといけないと感じるのでした。

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